2026.10.23NEW
「もう閉店ですよね? でも、この前買ったやつ、返品させてよ。レシート? ないけど」
夜10時の閉店まで、あと5分。郊外のドラッグストアで、レジに立っていたのは大学生アルバイトのDさんと、夜のシフトリーダーのEさんの2人だけでした。
お酒のにおいがする男性客は、声がだんだん大きくなっていきます。
「昼間の店員は、いつも返品してくれるんだよ。お前じゃ話にならない。店長呼べ」
店長は夕方に帰っています。本部の窓口は、もう営業時間外。Eさんの頭に浮かんだのは、昼間に教わった対応マニュアルでした。
「困ったときは、店長か本部に相談する」
でも今、その「相談する相手」は、どこにもいません。
多くのお店のクレーム対応マニュアルは、昼間の店舗を想定して作られています。
スタッフが何人もいて、店長がいて、困ったら本部に電話がつながる。周りには他のお客さんの目もある。だから「まずは丁寧に話を聞く」「判断に迷ったら上に相談する」という流れで、ほとんどの場面は収まります。
ところが、夜や閉店間際は、条件がまるで違います。
同じ「丁寧に話を聞く」でも、昼間なら30分付き合える話が、夜のDさんとEさんにとっては「いつ終わるか分からない、逃げ場のない30分」になります。
あなたのお店の夜のシフト、何人で回していますか。
その日、EさんとDさんは結局、30分以上その男性に付き合いました。シャッターを半分下ろしたまま、レジの前で謝り続けたそうです。
最後は男性が「もういい」と帰っていきましたが、Dさんは翌週、シフトを減らしてほしいと申し出ました。
「また来たらと思うと、夜に入るのが怖くて」
ここで店長がよく口にするのが、「そういうお客さんもいるから、うまくかわしてね」という言葉です。悪気はありません。でもこれは、対応のすべてを、その場にいるスタッフ個人の我慢にまかせているのと同じです。
夜のシフトに入れる人が減れば、残った人の負担が増え、さらに人が辞めていく。カスハラの本当のダメージは、その夜の30分ではなく、こうしてあとからじわじわお店の体力を削っていくところにあります。
「お客さま対応なんだから、ある程度は仕方ない」
そう思われがちですが、お店(会社)には、スタッフが安全に働けるように配慮する責任があると考えられています。危ないと分かっている時間帯に、何の備えもないまま少人数で対応させていれば、その責任を問われる可能性もゼロではありません。
さらに2025年には、カスハラからスタッフを守るための対策を、企業に義務づける法律の改正も成立しました。「現場がうまくかわしてくれればいい」で済ませられる時代では、なくなりつつあります。
つまり、夜のカスハラ対策は、現場の接客スキルの話ではなく、お店の仕組みの話なのです。
とはいえ、大がかりなことをする必要はありません。Eさんのお店では、この一件のあと、夜の時間帯だけに使う決めごとを3つ作りました。
① 夜は「1人で向き合わない」
相手が大声を出したり、同じ要求を繰り返したりし始めたら、もう1人のスタッフを必ず呼ぶ。1人しかいない時間帯なら、レジカウンター越しの距離を保ち、無理にその場を収めようとしない。「バックヤードに下がっていい」と、あらかじめ伝えておきます。
② 「ここまで来たら外に助けを呼ぶ」線を決める
「閉店時間を過ぎても帰らない」「物をたたく、投げる」「『殴るぞ』などと言われた」。こうなったら、警察や警備会社に連絡してよい、と具体的に決めておきます。夜のスタッフにとっていちばん重いのは、「通報していいのか迷う時間」です。迷わなくていいように、先に線を引いておきます。
③ 夜のリーダーに「打ち切る」判断をまかせる
「本日はこれ以上の対応はできません。日中に店長からご連絡します」と、その場で話を打ち切ってよい。その判断を、夜のシフトリーダーにまかせると明確にしておきます。そして翌朝、店長がきちんと引き継ぐ。夜の現場に「その場で解決しなければ」と思わせないことが大切です。
この3つを紙にして、レジ裏に貼りました。
次に夜のシフトに入ったとき、Dさんはこう言ったそうです。
「どこまで頑張ればいいのか分かっているだけで、全然気持ちが違います」
一つでも当てはまったら、夜の対応ルールを見直すタイミングです。
夜のスタッフを守る仕組みは、夜に働いてくれる人を守り、お店を続けていく力を守ることにつながります。
もし、「夜のシフトが少人数で回っている」「カスハラへの対応が、現場まかせになっている」「通報や打ち切りの基準を決めていない」という状況であれば、問題が起きてからではなく、今が、いちばん相談しやすいタイミングです。
お気軽にお声がけくださいませ。
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