2026.11.06NEW
「うちは仲がいいから、遺言書なんて要らないよね」
父親を亡くしたAさんは、母親と弟とともに、長年暮らした実家(土地・建物)と預貯金の相続について話し合うことになりました。三人とも揉めるつもりはなく、「法律で決まった割合で、みんなで話し合って分ければいい」と考えていました。
ところが、いざ話し合いを始めてみると、弟が「実家は自分が継ぎたい」と言い出し、代わりに預貯金をAさんと母親で分けるという案になかなか折り合いがつきません。
「遺言書さえあれば、こんなに揉めなかったのかもしれない」。Aさんはふと、そう思いました。
遺言書がない場合、相続財産は相続人全員による「遺産分割協議」で分け方を決める必要があります。全員の合意がなければ、法定相続分どおりにも、話し合いで決めた割合にも、正式には確定しません。
遺産分割協議は、相続人全員の合意がなければ成立しません。一部の相続人だけで決めた内容は、法律上無効です。
これは、相続人が1人でも「納得していない」「連絡が取れない」「認知症などで判断能力に不安がある」という状態になると、それだけで手続き全体が止まってしまうことを意味します。
たとえば、次のようなケースでは、話し合いがなかなか前に進みません。
こうした場合、連絡が取れない相続人がいれば家庭裁判所に不在者財産管理人の選任を申し立てたり、判断能力に不安がある相続人がいれば成年後見制度を利用したりと、余計な手続きと時間がかかることがあります。
遺産分割の話し合いでは、「親の介護をしていたのは自分だから、実家は自分が継ぐべきだ」という主張が出てくることがよくあります。こうした貢献は、法律上「寄与分」として、相続分に上乗せして考慮される可能性があるものです。
ただし、寄与分が認められるのは、同居して食事の世話をした、ときどき様子を見に行っていた、といった「家族として通常期待される範囲」の世話では足りず、仕事を辞めて長期間つきっきりで介護した、本来かかるはずだった介護費用を大きく削減したなど、「特別の貢献」といえる事情が必要とされています。しかも、実際にどのくらいの金額・割合として評価するかは、他の相続人全員が納得しなければ決まらず、介護の記録や通院の付き添いの記録などが残っていないと、「言った言わない」の水掛け論になりがちです。
なお、相続人ではない人(たとえば長男の配偶者など)が献身的に介護をしていた場合には、「特別寄与料」として、相続人に金銭の支払いを請求できる制度もあります。こちらも、相続人側との話し合いで決まらなければ、家庭裁判所の手続が必要になります。
有効な遺言書があれば、原則として、遺言書に書かれた内容に沿って相続手続きを進めることができます。相続人全員の合意を一から取り付ける必要がなくなるため、手続きの負担や、意見の対立によるトラブルを大きく減らすことができます。
ただし、遺言書であれば何でも思いどおりになるわけではありません。一定の近しい相続人には、最低限の取り分(遺留分)が法律上保障されており、これを侵害する内容の遺言は、後から遺留分を巡る請求を受ける可能性があります。また、自筆証書遺言は、日付や署名など法律で定められた形式を満たしていないと、無効になることもあります。こうした形式面の不備や、紛失・偽造のリスクを減らしたい場合は、公証人が関与して作成する「公正証書遺言」という方法もあります。原本が公証役場に保管されるため、形式不備で無効になりにくく、相続開始後に家庭裁判所の検認手続が不要になるという違いもあります(自筆証書遺言の場合、法務局の保管制度を利用すれば検認が不要になります)。弁護士に相談すれば、どのような文言にすれば遺留分トラブルや解釈の食い違いを避けられるかを一緒に考えたり、公正証書遺言を作成する際に公証役場に同行してサポートを受けたりすることもできます。
相続や遺言の話は、重要だとわかっていても、親が元気なうちはなかなか切り出しにくいものです。「縁起でもない」「財産の話だと思われたくない」といった気持ちから、先延ばしにしてしまう方も少なくありません。
遺言書は本人の意思で作成するものであるため、家族だけで準備を進めることはできません。無理に本題から切り出すのではなく、「終活」や「もしものときの備え」といった一般的な話題をきっかけにしたり、相続に詳しい専門家を交えて話す機会をつくったりすることで、親自身も話しやすくなる場合があります。
次のいずれかに当てはまる場合は、遺言書の作成を検討する価値があります。
「家族の仲がいいから」という理由だけで、相続の手続きが自動的にスムーズに進むわけではありません。将来の相続について気になる点がある方は、一度、現状を整理するところから始めてみませんか。
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